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レバレジーズ藤本直也&DeNA&住吉政一郎 対談 「『想定外の時代』をどう生きるか」

テクノロジーの急速な進歩により、これまでにない変化が日常となった現在。 この「想定外の時代」を生き抜くヒントを、いま注目の急成長企業で若くして役員を務めている新世代の経営者二人にうかがった。

(写真左:住吉政一郎氏 / 写真右:藤本直也氏)

インタビュイープロフィール

SEIICHIRO SUMIYOSHI 住吉 政一郎

株式会社ディー・エヌ・エー グループエグゼクティブ/ライブストリーミング事業本部 本部長

1986年生まれ。東京大学大学院で地球科学を研究したのち、2012年、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。ゲームのサーバーエンジニア、運用ゲームのプロデューサー、新規ゲームのプロデューサー/ディレクター、新規サービスのプロダクトオーナー、ゲームのコミュニティマネジメント経験と、コミュニティマネジメント組織の立ち上げなどを経て、現在『Pococha』などのライブストリーミング事業の責任者を務めている。

NAOYA FUJIMOTO 藤本 直也

レバレジーズ株式会社 執行役員

1991年生まれ。大阪大学工学部卒業後、2014年、レバレジーズ株式会社へ新卒入社。マーケティング部、新規事業の責任者、レバテックの経営企画を担当後、25歳でレバレジーズ史上最年少の執行役員に就任。その後は人事責任者、経営企画室長、マーケティング部長などを歴任し、現在はレバレジーズの40以上の事業のマーケティングと採用を統括している。2018年度から2019年度まで、中央大学で新規事業、マーケティングについての非常勤講師を務めた。

役員抜擢の要因はタイムスキップ?

―成長企業で若くして役員を務めているお二人は、どんな学生時代を過ごしていたのですか?

住吉:僕は大学院で地球科学を専攻していました。スーパーコンピューターで炭素循環のシミュレーションをして、地層などから得たデータと照らし合わせていくという研究です。とてもおもしろかったのですが、ものすごい「孤独」でした。こちらが呼びかけても、地球が返事をしてくれることはないですから。

誰かと何かをつくるような、もっとインタラクティブな仕事のほうが幸せになれるんじゃないか? と思うようになり、シミュレーションの経験も生かせるインターネット業界に飛び込みました。

藤本:僕は、テクノロジーで世界を変えられるかもしれない、と思い工学部に行きました。でも、アカデミックの世界で成果を出そうと思うと、限られた研究に一生かけて集中しなければならない。一方、ビジネスの世界で事業に取り組めば3年に1つは新しいものが生み出せる。後者のほうが社会を早く変えられそうだなと思い、ビジネスを志すようになりました。

また、大学生当時、生徒が1000人、スタッフが50〜60人いる予備校のマネジメントを担当していました。週7日、ほとんど休まずに働いていたんですが、「自分が頑張ることで受験生の未来が拓けて、地域にも貢献できる」という感覚がありました。「実社会で誰かを幸せにできる事業をつくりたい」と思うようになったのは、その経験も大きかったと思います。

―入社当初から経営に携わることを意識していたんでしょうか?

住吉:いえ。エンジニアとして自分でサービスを立ち上げるのがかっこいいと思っていましたから、経営に関わることは意識したり、想像まではしていませんでしたね。マネージャーになるのも早いわけではなかったですし。ただ、担当していたライブストリーミング事業が成長するのにしたがい、自分のポジションも上がり、事業が会社の経営にどのような影響を与えていけばよいかを考えるようになりました。自分が経営をみることが事業を伸ばすことにつながる、というのがみえたので、当時の執行役員、いまでは呼び方や役割が少し変わりグループエグゼクティブを担う覚悟が決まりました。

藤本:僕も役員にはあまり関心がなかったです。住吉さんと一緒で事業開発に興味があったので、経営は他の人がやってくれればいいと思っていましたから。なので、何回か役員にならないかという話を断っていたんです。

でも、大学の非常勤講師を務めていたときに先生から「年商200〜300億以上の日本企業で20代の役員はほとんどいないのでは」と言われ、自分が役員をやってみることが新しい時代をつくるのに役立つかもしれないと思い、挑戦することに決めました。

―レバレジーズもDeNAも、事業に意欲的な人たちが集まっている会社だと思います。その中で役員に抜擢されたのは、実績はもちろん、他の人と何か違った点があったからでは?

藤本:行動で他と違っていたかもしれない、という意味では、とにかくたくさん働いていましたね。他の人が遊んでいる間も、僕はずっと仕事(笑)。2年目の時点で、社内でいちばん大きい事業であるレバテックのマーケティング責任者と、他に2つ3つの新規事業の責任者を兼任していました。7、8人分の仕事はこなしていたと思います。

『ドラゴンボール』に「精神と時の部屋」という特殊な空間が出てくるのをご存じですか? 通常の何百倍も時間の流れが遅くて、たくさん修行ができるという場所なのですが、そこで修行していたようなイメージですね(笑)。量をこなしていたら、自分でも気づかないうちにタイムスキップしていたんじゃないかなと。

住吉:僕も、めちゃめちゃ働いていましたね。あるゲームの責任者をやっていたときは遅くまで仕事をして、家で少しの睡眠とシャワーを浴び、誰よりも早く仕事に取り組むという生活でした。他の人に推奨はできませんが、自分の事業をいいものにしたい、伸ばしたいと真剣に思っていたら、自然とそれくらいの熱量になると思います。

藤本:新しい事業を立ち上げるというのは、やっぱりシビアなものですよね。失敗したら何も残りませんから。特にレバレジーズでは「新規事業をやりたい」と言ったら、ほかの会社に比べてかなり早い段階で打席が回ってきます。僕も背水の陣で取り組んでいました。

「事業」と「経営」 2つに共通するおもしろさ

―新規事業に携わりたい、という声は就活生からよく聞きますが、その厳しさにも目を向ける必要がありそうですね。しかし、それを乗り越えたところに、おもしろさがある、ということでしょうか。

住吉:そうですね。事業を立ち上げて運営するには、さまざまな意思決定をしていくわけですが、ある要素を重視すれば、別の要素が犠牲になってしまうということがよく起こります。究極的には「売上とユーザーのどちらを大切にするか」といった話です。

もちろんビジネスですから、売上が重要なのは当たり前。でも当然、ユーザーが満足してくれなければ、その事業自体に意味がない。ユーザーにちゃんと価値を提供しつつ、ビジネスの要件もしっかり満たしていくというせめぎ合いをしながら組み立てていくのが、新規事業のおもしろさだと思っています。

藤本:僕も住吉さんと同じ気持ちでやっていますね。あとは、渋谷のスクランブル交差点を歩いていると、知らない人から、「藤本さん。おかげで転職がうまくいきました」と声をかけられたりします。そういうときには少し報われたような気持ちになりますね。

住吉:わかります。僕も街中で、自分が担当しているライブ配信のアプリを使っている人を見かけると、「わっ、使ってくれてる!」とむちゃくちゃうれしい(笑)。自分の仕事がユーザーの楽しさや喜びにつながっていると実感できるのは、何物にも代えられない喜びがありますよね。

―事業に携わるおもしろさと経営のおもしろさに違いはありますか?

藤本:以前は事業と経営は別物と考えていたので、経営を見るポジションに就きたいとは思っていなかったです。しかし、実際に経営に携わってみたら、おもしろさはあまり変わらない、というのが実感です。

住吉:そうですね。事業で行っている、コードを書いたりユーザーにインタビューしたりする、といったアクションが、経営では人を採用したり評価したり、チームを編成したりするという活動に置き換わるだけで、おもしろさの本質は変わらない気がします。

藤本:経営も、突き詰めれば「どうやったらお客さんに喜んでもらって、買ってもらえるのか」ということに行き着くので、その点は営業や広告の現場と同じだと思います。

ただ、経営の場合は組織全体が関わりますから、うまくいけば掛け算的に生産性が上がる反面、ちょっと状態が悪くなると一気にパフォーマンスが落ちてしまう。より影響が大きくて複雑なところが経営の難しさであり、またおもしろさなんじゃないでしょうか。

(写真左:住吉政一郎氏 / 写真右:藤本直也氏)

経営者とコンサルはまったくの別物

―将来経営に携わりたいから経営コンサルタントを目指したい、という就活生もいますが、お二人はどう思いますか?

住吉:自転車に乗るには実際に乗ってみるしかないように、経営に携わりたいのであれば、コンサルタントの立場ではなく、実際に自分で事業をやるのがいちばんじゃないでしょうか。

藤本:その通りですね。コンサルタントと経営者はまったく別物。事業に関わるさまざまな要素を勘案して、どうすれば勝てるのかを意思決定して、メンバーを動かしていくのが経営ですが、コンサルタントが担うのはそのなかの一部の要素。もちろん、重要な要素であるので、そのための高い専門性が求められる仕事です。志す人にはぜひ頑張ってほしいですが、経営コンサルタントを経験したからといって経営ができるようになるわけではない、というのは確かだと思います。

住吉:実際の経営では、この決断をしたらあのメンバーからこう言われるだろう、あのメンバーは辞めてしまうかもしれない、といったことも含めて意思決定をする必要があります。そういうぴりつくようなリアルな感覚というのは、実際に事業の戦場で戦ってみないと分からないのではないかなと。  「将来は経営に携わりたい」と聞くと、「だったら、いますぐやってみれば?」と思います。その気になったらすぐに経営を経験できるじゃないですか。

―たしかに、その通りですね。しかし、現段階では自分で事業を起こすアイデアはないけれど、ゆくゆくはそういう力を身につけていきたいと考えている就活生は、どういう観点で会社選びをしたらいいでしょうか。

住吉:伸びている事業があって、できればそれが新しくて、自分がゼロベースで考えていかなくてはならない環境に身を置くのが良いのでは。自分で事業がしたいなら、早いうちからリーダーの経験が積める会社がいいと思います。

藤本:伸びている会社に入るというのは鉄則だと僕も思います。手前味噌で恐縮ですが、レバレジーズは2022年度に869億円だった売上高が、今年度は1000億円を突破する見込みです。現在約2000人の社員数も、3年後には4000人くらいになっているでしょう。すると今年入った新入社員も、3年後には半分以上が後輩になり、リーダーや責任者を務める必要が出てくる。  安定している大企業で働くことももちろん良い選択だと思いますが、裏を返せば急成長もないわけで、成長したい人にとってはブレーキが掛かる環境かもしれない。自分の成長をスローダウンさせてしまうような環境に行くとしたら、少しもったいないことだと思います。

住吉:「人の成長よりも事業の成長のほうが早い」とよく思いますね。だから、成長している企業では、事業に引っ張られる形で人も成長していくんじゃないでしょうか。

藤本:たしかに。人材育成のシステムをつくるより、事業を爆発的に伸ばしたほうがみんな成長するんじゃないか? と思うことがあります。みんなであっぷあっぷしながらやっているうちに、いつの間にか力が身についているというのはよくあると思いますね。

住吉:「みんな、ついてこい!」と言っている自分自身が、ついていけるかどうか分からない、という(笑)。でもそうやって、メンバーと事業と一緒に成長していけることも、経営のおもしろさなんじゃないかと思います。

最も成長できる時期を無駄にしないために

―この記事を読んだ就活生が「想定外の時代」でキャリアを広げていくために、20代をどう過ごしたらいいか、アドバイスをいただけませんか。

住吉:先の読めない時代だからこそ、目の前の仕事に腰を据えて取り組むべきだと思います。ここで働くと決めたら本気になることですね。

20代がいちばん成長できる期間ですから、「ここではないどこかがあるんじゃないか」と迷うのは、本当にもったいない。自分で事業を始めたければいますぐにでも取り組める時代なのに、いまの自分はそれができていない、という現実をちゃんと受け入れて、自分が注力すべき仕事にしっかり向き合うことが必要でしょうね。

失敗したっていいと思います。本気でチャレンジした経験と悔しさがあれば、その次のプロジェクトでは、「次は絶対に潰さない」という強い気持ちが得られて、そのための頭の使い方もできるようになりますから。

藤本:やりたいことを会社に入ってから探そう、というスタンスの人も多いのかもしれませんが、会社に入る前に方向性だけでも決めておいたほうがいいと僕は思います。

僕も自分自身の経験から、20代はいちばん成長できる時期だと感じています。その貴重な時間を、中途半端な選択をして、やりたくないことや将来につながらないことで浪費しないためにも、自分が本当に何をやりたいか、しっかりと向き合うことをお勧めします。

そこで覚悟が固まれば、社会に出てからの仕事にも、より腰を据えて取り組めるようになるんじゃないでしょうか。