年俸制とは?
企業で働く場合の給与は大きく分けると「月給制」と「年棒制」に大別されます。
この違いについては後述しますが、労働の対価として支払われる賃金とは基本的に5つの原則があります。
▶︎ 1. 通貨払いの原則 賃金は通貨(強制力のある貨幣)で支払わなくてはなりません。
▶︎ 2. 直接払いの原則 賃金は直接労働者に支払わなくてはなりません。
▶︎ 3. 全額払いの原則 賃金は、全額支払わなくてはなりません。
▶︎ 4. 毎月払いの原則 賃金は毎月1回以上支払わなくてはなりません。
▶︎ 5. 一定期日払いの原則 賃金は、一定の期日を定めて支払わなくてはなりません。
月給制であろうが、年棒制であろうが、日雇いであろうが、上記原則から外れた賃金の支払い方は法律で認められません。
また賃金については原則として都道府県で定められた「地域別最低賃金」を下回る事も認められていません。
年俸制とは? ではそれらの原則を踏まえた上で年棒制とはどの様なものなのでしょうか?
プロ野球やサッカーを始めとしたスポーツの世界では前年の実績に沿った「年棒制」という言葉を良く耳にするかと思います。
しかし、サラリーマンの世界においても年棒制は存在しており、外資系企業やIT系企業、もしくは専門職の場合には用いられている場合があります。
年棒制の特徴としては大きくは以下の通りとなります。
▶︎ 1. 給与が年額で算出されている 通常給与とは「月額の基本給」+「残業代」+「業績によるボーナス」+「その他の手当」という構成になっています。
年棒制では、これらを一括して年額を算定し、それを12ヶ月で分割をして支給をするという形になっています。
▶︎ 2. ボーナスが連動しない場合がある ボーナスは会社によって取り決めた方が異なっておりますが、基本的には業績や人事評価に応じて支給されます。
年棒制の場合はそういったプロセスが省かれて、前年の実績によって組み込まれている場合があります。
しかし年棒制とはいってもボーナスを別途取り決める場合もありますので、確認が必要になります。
▶︎ 3. 残業代の取扱い 年棒制というと残業代が支給されない様に思われるかも知れません。
安心してください。
年棒制とは言っても、働いた分について会社は賃金を支払う義務があります。
所定の労働時間を超えた場合については残業代を支払わなくてはなりません。
しかし、年棒制の取り決めの中で「30時間は固定残業代として~」という取り決めがなされていれば、その時間内の残業代は既に支払われていると見なされます。
▶︎ 4. 成果によってアップダウンがある 年棒制の場合は結果として給与が下がる場合も存在します。
しかし、これは会社が一方的に給与を下げる訳ではありません。
プロ野球もそうなのですが、提示額に対して労働者の同意があって初めて成り立つ事です。
従って年棒制を使っている企業は就業規則で適法の範囲内できっちりと給与を下げられる根拠を決めているはずです。
年棒制といえども、会社は就業規則、法令に則って運用を進める事が大原則です。
会社の一存で恣意的に給与を上げ下げする事はできません。
年俸制は月給制と何が違う?
前項で年棒の概要をお伝えしましたが、具体的に年棒制と月給制の違いについてお伝えします。
▶︎ 1.所得の年額があらかじめ決まっている 年棒制とはそもそも、成果主義と結びついた給与体系です。
前年の成果に基づいて当年の給与の年額を決めてしまう事が大きな特徴です。
月給制においても期間業績に応じたボーナスの変動は存在しますが、年棒制ほどの差は大きくありません。
▶︎ 2.成果主義、貢献主義の度合いが大きい 前述していますが、年棒制とは成果・貢献の部分が大きくクローズアップされる制度です。
外資系ではよく見られる様に結果と賃金が大きく結びつき変動をします。
日本の月給制では労働組合などの関係もあり、給与を大きく変動させる事は難しいのが現実です。
その一方で、成果を出している社員にしてみると、給与が他の社員とあまり変わらない事に不満を持つ場合もあるかも知れません。
▶︎ 3. 毎月の給与額 月給制の場合は基本給をベースにして、「残業代」「その他の手当」が加算をされて支給をされます。
また6月、12月の上旬に賞与が支給される企業が中心です。
従って、月給制とは毎月支給される給与が大きく変動する事があります。
一方、年棒制の場合は年額で給与を算定している場合が多いので、ボーナスも含めて12ヶ月を均等に割って支給される場合が多いと思われます。
▶︎ 年俸制と月給制の違いまとめ ここまで違いを解説致しました。年棒制とはいえ、全てが結果で決まるものではありません。
前提としては給与の支払い方に違いがあると理解をしてください。
従って、残業代が出ない、各種手当がないというイメージは持たないでください。
ましてや会社の一存で従業員の給与を上げ下げできる訳でもありません。
今後、就活において説明会等に参加をする場合に事業内容も大事なのですが、労働の対価である給与についても可能な限り確認をしてみてください。
年俸制導入による過去のトラブルと今後の対処法
現在の日本ではまだ年棒制は定着しているとは言いづらい部分があります。
企業側、労働者ともに曖昧な中で制度運用を進めた事によるトラブルも少なくありません。
ここでは年棒制に良く見られるトラブルと対処法について解説致します。
▶︎ 1. 残業代 年棒制の中で一番トラブルが起こるのが、残業代についてです。
そしてこのトラブルが発生する原因は「法律を理解していない」もしくは「年棒制の恣意的な運用」のどちらかでしょう。
そもそも労働基準法では原則1週間は40時間、一日は8時間しか働かせてはならない事になっています。
それ以上に働いてもらう場合には労働組合の合意が必要になります。
そしてその範囲を超えて働いた場合には残業代として請求できます。
これは大原則です。
しかしながら、悪意のある経営者は年棒制だから、残業代も関係ないと考える場合が少なくありません。
会社として人件費を一定に抑える制度として年棒制を捉えているのでしょうが、大きな間違いです。
この問題を回避するためには契約前に必ず、日々の労働時間の確認し、その労働時間を超えた場合の取扱いとして残業代の支払いがある事を確認する事です。
また年棒制、月給制関わらず、就活においては残業代、残業時間については確認をしておくべきです。
昨今は働き方改革の施行もあり、企業は残業には敏感になっています。
今の日本企業は従業員の労働時間、残業代を削り、労働生産性を上げていく事が求められています。
▶︎ 2. ボーナス ボーナスについてもトラブルになる可能性があります。
特に月給制の社員と年棒制の社員が混在している場合には注意が必要です。
ボーナス支給日に年棒制の社員が「俺にはボーナスがないのか?」という場面が起こりえます。
このポイントはボーナス相当額が年棒に組み込まれているか否かです。
組み込まれていた場合には支給の必要はありません。
逆に年棒制とは言ってもボーナスを支給する事も可能です。
つまりは契約条件の中にボーナス支給がどうなっているかを確認してください。
▶︎ 3. 成果主義との関係 前述していますが、年棒制は成果主義に基づいているケースが多く見られます。
従って、業績、成果が悪かった場合に翌年の給与を大きく下げられた場合には大きなトラブルになります。
これも悪意のある経営者が恣意的に年棒を下げた場合に起こります。
しかしながら、年棒制とは会社が一方的に年棒を決められるものではありません。
必ず労働者の同意が必要になります。必ず契約手続きを行う事でこの問題は回避できます。
▶︎ まとめ こういった労働問題については、まずしっかり契約書を確認する事である程度は回避できます。
それにも関わらずトラブルになった場合は社内の労働組合に相談をしてください。
そういった組織が存在しない場合は労働基準監督署も選択肢になりますが、労基署の立ち入りをうけると企業も大きなダメージを受けますので、お互いに避けたいものです。
年俸制のメリット・デメリットまとめ
▶︎ 1. 年棒制のメリット
① 月額給与がほぼ一定 年棒制ではボーナスを含めた額で年額を算出して、それを12ケ月に分割して支給する事が一般的です。
従って、毎月支給される給与はほぼ一定の為、1年の範囲であれば家計などの生活設計が容易になります。
ローンなどの支払いの予定が立てやすいのは大きなメリットです。
② 自分の成果の反映される幅が大きい 年棒制では前年の実績に基づいて翌年の年棒が決まります。
当然、優秀な成績、実績を残した場合には翌年の年棒も大きく上がる可能性があります。
月給制などですと、成果、実績などの処遇への反映はボーナスや翌年の昇給になります。
しかし今の日本の平均的な企業においては未だ年功序列的な傾向も強く、従業員の給与に大きな格差をつけない場合があります。
せっかく、成果を出したのに、それがしっかり反映されないのであれば、従業員のモチベーションにも関わってきます。
その点、年棒制であれば、頑張った分の対価として給与が上がる幅が大きいので、従業員のモチベーションに寄与すると思われます。
▶︎ 2. 年棒制のデメリット
① 給与変動幅が大きい 前項と相反する部分にもなりますが、成果が出なかった場合には給与が大きく下がる場合も少なくありません。
自分の結果として受け入れられる場合には良いのですが、生活設計が大きく狂う事もあります。
② 残業代の支給 残業代の支給については契約内容次第ではありますが、固定残業代として一定の時間が含まれている場合にはその時間内の残業代は既に年棒に含まれています。
従いまして、残業をしたなと思っていても、既に契約上含まれていた場合には残業代の支給がされませんし、請求もできません。
③ プレッシャー 年棒制の場合は成果、実績を重視される場合が多く、結果を出せる事が当たり前として周囲は見ています。
その中で成果・実績が伴わない場合には大きなプレッシャーに晒される事になります。まさに外資系のイメージです。
▶︎ まとめ 年棒制について簡単に解説を致しましたが、社会人になった時に「やりがい」「充実感」と一緒に大切にして欲しいのはやはり「給与」です。
給与は会社からの評価の物差しになるものです。
説明会や面談でも気になる事があれば是非確認する事をお勧めします。