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優れたベンチャー企業が生まれづらい、日本社会の弱点【沈 才彬】

連載、2050年を生きる力。前回に引き続き『中国新興企業の正体』(角川新書)を執筆した中国経済のスペシャリスト、沈才彬さんにお話を伺います。中国新興企業の強さの一方で、日本ではなぜユニコーン企業(創設10年以内で評価額が10億ドル以上のベンチャー企業)が生まれないのか、についてお聞きしました。

中国経済の専門家が語る、日本社会の欠点

30年後の社会を支える「エリート」に不可欠な資質について、各界をリードする方々にお聞きしている就プロのオリジナル連載。

前回に引き続き『中国新興企業の正体』(角川新書)を執筆した中国経済のスペシャリスト、沈才彬さんにお話を伺います。

今回は、中国新興企業の強さの一方で、日本ではなぜユニコーン企業(創設10年以内で評価額が10億ドル以上のベンチャー企業)が生まれないのか、についてお聞きしました。

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日本の科学技術分野は停滞している

ー中国経済に活気がある一方で、なぜ日本では優れたベンチャー企業が生まれにくいのでしょうか。

沈:著書で紹介した中国の新興企業は、すべてテクノロジーを駆使してシェアを伸ばしています。このようなテクノロジー企業が日本で生まれにくいのは、日本の科学技術分野が地盤沈下を起こしているからではないでしょうか。

ーそう言われても、私たち日本人にとっては意外というか...。正直、あまりピンとこない方が多いのではないでしょうか。

沈:そうでしょうね。でも、それを裏付けるデータとして「世界に注目される論文数の国別割合」(2013-2015年)があります。

この結果を見ると第1位はアメリカ、第2位は中国、日本は残念ながら第9位。10年前には日本は第4位だったことを考えると、大きく後退してしまっているわけですね。逆に中国は第6位から大きく躍進しています。

ーつまり日本は中国に比べ、イノベーションを生み出す力が弱まっている、と...。

沈:そう考えられます。

他にも「アメリカが選ぶ共同研究の相手国」を調査した結果があるのですが、それを見ても化学、工学など6分野で中国が第1位です。一方の日本は、いずれの分野でも第5位から13位という位置にとどまっています。

このままでは、日本の学者がノーベル賞を取れなくなる時代が来ても不思議ではないと言われているぐらいです。

中国には「とりあえずやらせてみる」文化がある

ー世界との差は、そんなに深刻なんですね。

沈:あとは日本と中国、それぞれの政府を比べたとき、規制についてのスタンスが違う、という面も影響しているでしょう。

おそらく、多くの日本人は、中国こそ規制が厳しい国だと思っているかもしれませんが、実はそうではありません。

ーそうなんですか、それも意外な感じがします。

沈:中国では、既存産業に対して厳しい規制をしているのは確かです。一方でニューエコノミーの分野については「取りあえずやらせてみて、問題があるなら後から規制すれば良い」という考えを貫いています。

これを「先賞試、後管制」というならば、逆に日本は「先管制、後賞試」。つまり、先に法律で規制をする。そして、徐々に民間の参入を許可する、というものです。

新しい取り組みに対してすぐに規制をしてしまうわけですから、これでは新しいチャレンジや、技術革新はなかなか生まれないのではないでしょうか。

ーなるほど。だから日本は、ユニコーン企業が生まれにくい土壌にあるわけですね。

沈:その通りです。中国でも、もし最初からニューエコノミー分野で規制がかけられていたら、今のような発展は見られなかったでしょう。

法律で規制されないグレーゾーンがあるからこそ、そこに目を付けて進出し、ビジネスチャンスをつかむ民間企業が続々と現れているのです。日本では、グレーゾーンに参入する企業があったとしても、「出た杭」として打たれてしまうのではないでしょうか。

法整備には立案から成立まで数年かかります。住宅宿泊事業法(民泊新法)がようやく施行されましたが、配車アプリビジネスを活性化させる白タク合法化の見通しはまだ立っていません。

法律が成立してから民間企業が参入するという日本のやり方では、スピード感が全くありません。

若者の起業をバックアップできていない日本

ーほかにも違いはありますか。

沈:中国のユニコーン企業を創業した人たちは、ほとんどが20代~30代前半で起業しています。例えば、ネット出前のサービスを展開する「餓了麼(ウーラマ)」の創業者は23歳、大学院在籍中に会社を立ち上げました。ドローン世界最大手「DJI」の創業者も26歳、大学院生のときに起業しています。

著書で紹介している9社について「創業者が何歳で創業したか」を見てみると、4社が20代、3社が30代前半、4社が40代前半でした。

個人的に起業するには20代~30代が最適だと考えていますが、日本では残念ながら創業意欲を持つ若者が少ないようです。そうなる理由の一つは、日本には、創業者を金銭的に支援する「ベンチャーキャピタル(VC)」の存在が少なく、起業したい若者をバックアップする環境がないことでしょう。

ー世界とは違う、ということですか?

沈:「ベンチャー白書2016」で2015年度のVC投資額を比べると、トップはアメリカの723憶ドル。中国が489憶ドル、インドが118億ドルと続くわけですが、日本は7億ドルしかありませんでした。これはアメリカと比べれば1%未満、中国の1.4%に過ぎません。

ーなぜ日本はそのような結果になるのでしょう。

沈:日本は、とにかく失敗を許さない風潮があるからだと思います。

ベンチャー企業の鉄則は「九死一生」です。起業してもうまく生き残っていけるのは、せいぜい1割。9割は5年以内に死んでしまうと言われています。

中国では1日に2万社が設立されますが、残る1割の2000社からユニコーン企業が出てくる可能性があるというわけです。

それは、失敗を受け入れる風土が中国にあるから。だからこそ若者は起業にどんどんチャレンジできるのです。

日本のように失敗を許さない社会は、ベンチャー企業にとって不利ですよね。個人的にはライブドアの社長だった堀江貴文氏の逮捕後、日本の若者たちの創業意欲は急速に低下していったと感じています。

ーそういう社会では若者の創業意欲は湧きませんよね。

沈:はい。だからこそ今、私は全国で講演を行う中で、若者への投資を訴えています。お金だけではありません。若者が挑戦できる環境作りに力を注いでください、とお願いしているのです。

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