飛躍する中国経済の専門家、日本学生へのメッセージ
話題の新書『中国新興企業の正体』(角川新書)の著者、沈才彬さんから中国新興企業の実態と日本の違いについてお聞きしている連載3回目。
前回は、社会環境の違いが日本の若者の起業意欲をそいでいる、という問題点についてご指摘をいただきました。
一方で若者の意識そのものにも課題はありそうです。日本の大学で教鞭(きょうべん)を執っていた沈さんが、今こそ日本の若者に伝えたいメッセージとは―。
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日本の若者は「内向き志向」が強い
ー社会的な問題だけではなく、日本では就職状況が良いこともあり、学生が起業する選択肢を考えないというイメージもありますが...。
日本の若者と中国の若者の、そもそもの違いは感じますか。
沈:中国の大学生に将来の夢は何かと聞けば、おそらく半分以上は「社長になること」だと答えるでしょう。さらに「社長になるために欧米留学をしたい」という人も多いはずです。将来、起業するためのステップとして、欧米留学を考えている学生が中国にはとても多いのです。
一方で日本の若者たちは、実に内向き志向だと思います。アメリカの留学生受け入れ数を見ても、日本は1999年に約4万7000人だったのが、2016年にはおよそ6割も減って約1万9000人になっています。これは全留学生のわずか1.7%に過ぎません。同じ時期で比べれば、中国の留学生は5倍以上も増え、今や全留学生の3割強を占めるまでになっているのです。
現状に安住する傾向が強い日本人の若者から、ハングリー精神やベンチャー意欲が欠落しているのは、とても気になる現象です。
日本の若者の内向き志向が強まる中、中国の国内には世界の若者たちの「外向き志向」を醸成する大学院が誕生しているのですが、日本ではほとんど知られていません。
ーどういう大学院なのですか。
沈:習近平国家主席や胡錦涛前国家主席など、中国の指導者を輩出してきた精華大学に「シュワルツマン学院」が設立されました。
意外ですが、シュワルツマンはニューヨークに本社を置く投資ファンド会社のアメリカ人CEOから名前を取っています。彼が1億ドルの私財を精華大学に寄付し、設立したことが由縁です。将来の超大国になりうる中国とアメリカのパイプ作りを進める狙いがあったのでしょう。
シュワルツマン学院の設立趣旨は「異なる文明間の相互理解と協力を促進する未来のグローバルリーダーを育成する」となっています。設立は2016年ですが、第1期生の募集には200人の定員に対して3000人から入学希望があったようです。
1期生は欧米を中心に外国人留学生が8割を占め、出身校はハーバードやプリンストン、イェール、MITなど。これほどトップクラスのエリート大学生たちが中国に集結するというのは、今まで考えられないことでした。
当然ですが、この学院で学べる内容は世界一流だと言われています。だからそれだけの学生が集まるわけですが、隣国である日本からの留学生は第1期生についてはたった2人。第2期については1人もいませんでした。
若者が挑戦し、日本経済を牽引して欲しい
ーそういうお話を聞くと、日本だけ置いていかれている感じを受けます。
沈:私は2008年から7年間、大学教授の立場で日本の若者に多く接してきました。だからこそ次代を担う若者には世界と日本の現状を知り、若者の手で日本経済を活性化させてほしいと願っています。
日本の若者にも、アメリカや中国の若者に負けないぐらいに、イノベーションを生み出して欲しいと願っています。
著書で解説した中国9大新興企業の特徴を読み解いて、ぜひ創業意欲をかきたててもらいたいと思います。
ー創業を志す若者にアドバイスはありますか?
沈:中国の新興企業の特徴は、実体験から「かゆいところに手が届く」サービスを作り上げたことにあります。
例えば、通勤地獄の解消を図ろうと配車アプリを立ち上げた「滴滴出行」。駅から通勤先など最後の1キロの移動問題を解決しようという「モバイク」などです。日本の人口は中国の10分の1ほどなどでマーケット自体は大きくありませんが、人口の多い・少ないは関係ありません。
創業のキーポイントは「庶民の味方」であることで、身近で困っていることに対して、テクノロジーやイノベーションで問題解決を図ろうという姿勢は大いに参考になると思います。
また中国の新興企業の創業者たちが成功できたのは自分を信じ、あきらめなかったからです。挫折と失敗は創業にはつきものです。著書ではそれぞれの創業者の若かりし日のストーリーを紹介しましたが、必ずしもみんな最初から優秀だったわけではありません。
アリババを創業したジャック・マー氏などは、むしろいわゆる「問題児」でした。進学の試験にも何度も失敗してしまうような若者でした。けれど、とにかく「あきらめなかった」のです。これが一番、大きな成功の原動力になっていると思います。
ー自ら起業するだけではなく、ベンチャー企業で働く、という選択肢もありますよね。就職状況が良い中では、なかなか目が向けられないかもしれませんが、この点についてはどう思いますか。
沈:今や、一流企業に就職することだけが人生の成功ではないのは明らかでしょう。例えば配車アプリ「滴滴出行」の成功を支えたのは、ハーバード大学を卒業後、投資銀行のゴールドマン・サックス(GS)で史上最年少のアジア太平洋地域執行役員兼総経理にまでなった柳青氏でした。
GS時代、彼女の年収は日本円に換算すると約4億5000万円。ところが2014年、GSの仕事が好きで、順調だったのにも関わらず、創業間もない滴滴出行の最高執行責任者(COO)に就任しているのです。
収入も、社会的ステータスも、安定的な未来も捨てて、なぜ彼女はベンチャー企業に移ったのか。
それは「滴滴出行」が「人々の外出スタイルを根本的に変える可能性を秘め、潜在的な価値も巨大である企業」であり、「骨の中から変化のホルモンがあふれ出る年齢の若いチームと一緒に成長していく絶好のチャンス」だったからだと後のインタビューで語っています。
自ら創業するだけではなく、このようにベンチャー企業に未来を賭ける、というのも選択肢の一つになりうるはずです。
ー最後に日本の若者に向けて、メッセージをお願いします。
沈:若い皆さんにはチャンスがあり、未来があります。現時点で、著書で紹介した中国の9大新興企業に勝てる日本企業は存在していません。この現実に目を向け、若い皆さんがもっと果敢に挑戦し、新しい日本経済をけん引していってほしいと願っています。
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