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「東京オリンピックが目標」の日系企業に興味なし【トップ理系院生の就活】

旧帝大から早慶までの「上位5%」に属する、最優秀層の就活生にキャリア選択にまつわる本音を聞く本シリーズ。今回、インタビューしたのは、東京工業大学工学院(修士課程2年生、男性)のMさんだ。 前編で触れた通り、日本eスポーツ協会主催eスポーツ選手権6連覇、eスポーツ世界大会1500人中21位という異色の経歴を持つMさん。服にあまり興味がないにもかかわらず、大手アパレルメーカーに就職することを決断するまでの葛藤を赤裸々に語る後編。

大手電機メーカーを、選択肢から外す

Mさんの就活遍歴を訊いた、前半はこちら

──前編では、小学校の頃から憧れていた外コンが自分には合わないということがわかり、日系企業に絞って10社以上のインターンに参加されたところまでうかがいました。その段階では、どこがいちばんでしたか?

Mさん:冬インターンが終わった直後に、大手メーカーX社の話が来まして。その時点では、X社でしたね。

──X社にもインターンに参加されていたのですか?

Mさん:参加していません。これは、ちょっと通常ではありえないケースだと思います。ある友人と飲む機会があって。彼は当時X社の幹部候補として特別枠で話が進んでいました。そのときに「M君は魅力的だからつないであげるよ」と言われて。

そんなことが本当にできるのかと、半信半疑だったんですが、実際に面談をして、ぜひ特別選考で進んで欲しいという流れになり、人事の方と会うことになりました。X社のような大企業に、このようなルートがあるのかという驚きと、これもなにかの縁かもしれないと感じたとこともあり、その段階ではX社にしようと思ってました。

──それからどのように?

Mさん:実際に、X社の人事の方と会ってみると、話がちょっとかみ合わなくて。そのころの僕は、面接のときに意識的にビジョンを語るようになっていたんですね。自分の能力的なアピールではなくて、日本社会はどうあるべきで、そのためにこういうふうに携わりたいというような、思想的というか哲学的なことを。

ですが人事の方は、そういったことにはまったく関心を示すことなく、どこの部署に行きたいのかといった事務的な対応に終始していて。

その後に、また別の社員の方と話をする機会があったので、そこで「人生の目標とかビジョンがあれば教えてください」と聞いたのですが、「2020年の東京オリンピックをX社として盛り上げたい」と。

人生の目標がもう2年を切っている(笑)。冗談のつもりだったのかどうかはわかりませんが、あまりにも近視眼的な目標だったので、期待していたイメージとのギャップを感じてしまい、どうしても決断できませんでした。

──世界的な大手メーカーに特別枠で入社するというチャンスを断念するほどのことだったのですね。

「必要とされている」と感じる会社に行きたい

Mさん:H社でも、インターンが終わった後に、本部採用が確約されている特別枠のようなルートに入れていただいていたということもあったかもしれません。

長期インターンで執行役員とか、部長とか、幹部社員の方々とのコミュニケーションの機会を、積極的につくっていただいたり。自分のことを一番必要としてくれているなと感じたのはH社でしたから。

──X社の時と同じように、H社の面接でも、思想や哲学的な話しをしたのですか?

Mさん:しました。人事の方から「いま何をしたいですか? どういうことに関心がありますか?」と質問されて、「直感を鍛えたい」とかそういったような話をしました。

他の会社では、何なんだこいつはという反応をされることが多かったすけど(笑)。H社の場合は、面白がってくれまして、この会社であれば、自然な自分でいられるかもしれないというフィット感はありましたね。

──H社の内定はいつ出たのですか?

Mさん:12月です。

服に興味がないのに、世界的アパレルメーカーに惹かれた理由

──X社という選択肢を消して、それでH社に決めたのですか?

Mさん:ところが、すぐには決められませんでした。前編で言ったように、服にあまり興味がなかったですから(笑)。

──それでは、それから、まだ就活を続けられたのですか?

Mさん:それ以降は、就活はしていません。内定をもらっていた4社のなかでどこにするかということをしっかり、時間をかけて検討していこうと考えていました。

──H社以外には、どういったところが残っていましたか?

Mさん:人材大手R社とゲームメディア会社、日系のコンサルティングファームの3社です。

──最終的にH社に決めたのはいつ?

Mさん:先週です。

──半年間、悩んだということですね。

Mさん:R社の人事担当者や部長をはじめ、いろいろな方の話を聞かせてもらいながら、自分のキャリアとか、やりたいこととかを明確にする作業をしていました。

R社含め内定を辞退することになった3社に関しては、結果的に、自分の決断が間違っていないのかと確認するために、ある意味ちょっと利用するような形になってしまいました。

──それだけ難しい選択だったと?

Mさん:服に興味がないということが、ずっと引っかかっていました。起業することを考えていれば、起業家輩出企業としても知られるR社を選択していたと思いますが、そこまでの意識はありませんでした。

父の影響で小学生の頃から憧れていたコンサルの仕事が自分には合わないと判断した後は、いろいろなインターンを経験していくなかで、やりたい仕事が見つかるだろうというふうに考えていたのですが。

結局見つからないまま決断しなければならない状況になってしまったというのが正直なところでした。でも、いっぽうで、服に興味がないのにH社に魅力を感じていることも、面白いなと感じる自分もいて。

──H社に決断した理由は最終的には何だったのでしょう。

Mさん:最後は、結局仕事はやってみないと分からないと思えたことです(笑)。コンサルとかマーケティングといった職種に憧れを持っている人が多いと思いますが、就職を決める段階で、コンサルやマーケティングの仕事を本当に理解しているわけではありません。

実際に会社に入って、仕事を経験するなかで魅力を見つければいいと。

そこでいつも思い出していたのが、H社のインターンで、社員の方に、「僕は、服に興味がないんですが、大丈夫でしょうか?」と相談したときに、「興味がないものを売れるようにできたら本物じゃないか」言ってくれた言葉でした。

実は友人も同じくH社に入社を決めたのですが、決め手になったのはやはり「人」だったそうです。ある執行役員にほれ込んで、「この人と、どうしても働きたい」ということでした。

先ほど言ったように、仕事はやってみないとわからない。でも僕は、どういう仕事でも、超一流になるために努力する覚悟はもっています。であれば、自分の実力をいちばん発揮しやすい人であったり、環境であったりということを軸にしていいはずだと。

超一流になる覚悟があるから、「人」で決断できた

──やりたいことが見つからなかったということですが、eスポーツのプロになろうという気持ちはまったくありませんでしたか? eスポーツは、東大卒のときどさんがプロとして活躍するなど、職業としてテレビで紹介されるほど注目が高まっています。

Mさん:世界大会で21位になったあとに、いま所属しているゲーミングのチームの方と話をする機会がありまして。その時に言われたのが「お前はハンパ者だ」ということでした。eスポーツで戦っている他の人たちというのは、本当にゲームのためだけにすべてをかけてきた人たちなんです。

僕は、そこまでの覚悟はできないなと思いました。でもeスポーツの経験で得たものを就活や仕事には活かせるはずだというのはありました。

──eスポーツで結果を出すためのプロセスは、就活にも有効でしたか?

Mさん:物事を観察して、抽出して、抽象化して、対策を立てて、行動して、と僕なりのPDCA的なものを回すということが体に染みついていまして。就活の序盤とか、僕自身、うまくいったり、いかなかったりといったことを、ゲームのように楽しむことができていました。RPG(ロールプレイングゲーム)の学びで、体力やステイタスが上がるようなイメージで(笑)。

面接を受けて、こういったときは反応がよくなかった、これはよかった、それでは今度はこうしてみようと、自分自身を客観的に捉えて、どう対策していくかということを面白がれる自分がいました。

そのような自分を発見したことで、eスポーツでは成し遂げられなかったことが、新卒というみんな同じスタートラインからよーいドンでいろいろできる就活、そしてその先のビジネスの世界であればできるんじゃないかと。

どんな仕事でも、超一流を目指す覚悟はできていると言いましたが、eスポーツでひたすら努力を続け、競技者として結果を出してきた経験がなければ、そこまで思えなかったかもしれません。

──最後に、就活生にアドバイスをお願いします。

Mさん:まずは、○○に興味がないというフィルターをかけずに、できるだけ多くの企業を見てほしい。僕自身も服に興味がないのに就職を決めたわけですから、先入観で判断せずにインターンに参加してほしいですね。

そして、就職活動というのは、本当に楽しいし、すばらしい機会だということを、ぜひ強調したいです。企業全体が、一丸となって新卒を育てる1年間というのが、この就活の時期だと思っています。

僕自身もインターンに参加していろいろなことを学び、それをまた別のインターンにぶつけるという作業ができて、多くの学びがありました。精神面でも、能力の面でも、これまでの人生のなかで、いちばん成長した1年だったと思います。就活というイベントを満喫するためにも、できるだけ早くからスタートしてほしいと思います。