父親の影響で小学生の頃から外コンを志望
──国内のeスポーツ選手権で6連覇という経歴を持ち、eスポーツのように就活を楽しんでいた学生がいるということに興味をもちました。今日は、eスポーツの経験がどのように就職活動に活かせたのかを含めて、お話を聞かせてください。
いつからeスポーツを始めたのですか?
Mさん:大学に入ってからですね。最初は単純にテレビゲームに夢中になったというだけだったのですが、そこからちょっと本格的にやってみようかなと思って。フィードバックが早いのが楽しくて、どんどんはまっていきました。
──フィードバックが早い?
Mさん:たとえば、実際にサッカーの試合をしようとすると、まず、人を集めなければいけません。自分のチームもそうですが、相手チームも必要です。やりたいと思ってすぐできるわけではありません。場所も予約しなければなりません。
eスポーツの場合は、インターネット上で戦うので、自宅に居ながらすぐに試合ができて、自分がトレーニングしたり、調べたり、研究したりといったことをすぐに試すことができます。さらに試合時間というのが2,3分で1試合が終わり、勝ち負けの結果がデータとして残ります。
このようにフィードバックが圧倒的に早い。「自分の努力がすぐに反映される環境」というのが整っている。それがeスポーツの最大の魅力ですね。
──今は、東大卒でeスポーツを職業として活躍している人も出てきていますが、東工大に入学するときに将来の仕事に関して目標はありましたか?
Mさん:大学に入るときは、コンサルタントになりたいと思っていました。父がもともと外資系コンサルティングファームに勤めていて、小学校の頃からコンサルというのはすごく面白い仕事だよと聞かされて育ちました。
具体的な内容は忘れてしまいましたが、ピーターパンの童話のように楽しんで聞いていた記憶はずっと残っていて、将来はコンサルタントになるつもりでしたね。
──小学生のときに、将来コンサルタントになりたいという友達は、周りにはいなかったのではないですか?
Mさん:そうですね。僕の場合は、仕事のことを楽しそうに話す父に対しての憧れがあったと思います。
外コンを辞退し、「日系コンサル」のインターンに参加
──就活を始めたのはいつからですか?
Mさん:修士1年の5月からはじめました。大学院の研究室の先輩から、早めにやった方がいいよとアドバイスされたので、5月からインターンに応募しはじめて、8月から本格的にスタートしました。
──インターンは、どこに参加されましたか?
Mさん:夏のインターンに関しては、父の勤めていたビッグ4と呼ばれる外資系コンサルティングファームの2社と日系コンサル1社に応募しましたが、結局、外コン2社は辞退して、日系コンサル1社にしか参加しませんでした。
──外コンを辞退した理由を教えてください。
Mさん:インターンに応募した3社のジョブを受けたのですが、外コンは自分には合わないかなと思ってしまいました(笑)。 というのも、8月時点で外コンを受ける人というのは、将来的にやりたいこと、目的があってコンサルティング会社に入るというのではなく、自分の能力が高いから受けたという人が多いなと僕の目には映って、同期としてこういった人たちと働くのは厳しいなと。
夢だった外コンではあるんですが、そこから日系企業にシフトしました。
──それからどのように活動しましたか?
Mさん:それで秋に参加したのが、最終的に就職することに決めた大手アパレルメーカーH社のインターンでした。執行役員が5人も出てくる贅沢なインターンだったので、これは参加しないともったいないなと。
実際役員一人ひとりが個性的で魅力的でした。一般論で語るというところがまったくなく、それぞれ自分の言葉で話をしているのが伝わってくるんです。
外コンのときと違って、参加していた他の就活生とも波長が合うというか一緒に働きたいなと思える人とも出会えたので、僕にとってはターニングポイントになったインターンでした。
──秋のインターンに参加した時点で、H社は本命でしたか?
Mさん:実は、僕は服にあまり興味がなかったんです(笑)。なので、日系企業にシフトした1社目で自分にフィットする会社に出会えたということもあり、その段階では、できるだけ多くの会社を見てみたいという気持ちのほうが強かったです。
日系大手企業は、外資系企業に比べると出世が遅いとか、論理的思考力という面でも劣るのではないかという勝手な思い込みがあったのですが、実際にさまざまな企業のインターンに参加して、日系も捨てたもんじゃないなというふうに思考がチェンジしました。
外資系と比べても負けないくらいロジカルに考える能力だったり、感性だったりをフル活用してやっている企業が日系でもたくさんあることがわかりました。そこから、さらに事業を作るという仕事も面白そうだなという思いもめばえていきました。
コンサルが自分に合わないかもしれないと感じたこともあって、ジャンルを広げて探す必要がある。そこで大手医薬品・食品会社からIT系メガベンチャーD社、インターネット広告会社C社、人材大手R社など10社以上のインターンに参加しました。
J社のインターンでようやく出会えた「自分らしさ」
──10社以上のインターンに参加してみて感想はいかがでしたか?
Mさん:自分の悪いところが見えたということで覚えているのが、インターネット広告会社C社で、ワーク自体がすごくおもしろかったのが大手医薬品・食品会社J社のインターンでした。
──自分の悪いところが見えたというのは、どのようなことですか?
Mさん:秋以降、積極的にインターンに参加していくなかで、徐々に慣れていき、手ごたえだったり、どんなケースでも対応できる自信もめばえてきたところで、C社のインターンに参加しました。ところがその時の僕は、まったく自分らしさを出せなかった。
参加している周りのメンバーによって自分の実力をこんなに出せないものなのか、ここまでモチベーションが下がるものなのかと気づくきっかけになりました。
──それを修正する必要があると?
Mさん:これまでは、心で思っている負の感情を態度や行動には見せない自制心というのは持ち合わせていると思っていました。合う合わないは直感的なものなので、言葉にはできないのですが、この人とは合わないなという気持ちが、ワークのモチベーションにまで影響してしまったことは、改善していく必要があるなと感じました。
──J社のインターンが良かった理由を教えてください。
Mさん:日系企業のインターンでは、新商品を考える、新規事業を立案するというようなワークがほとんどです。僕はそれに対して、ロジカルに演繹的に考えて、これがこうだから、こうで、だからこれが必要ですという、前提となる事柄をもとに、そこから確実に言える結論を導き出すというまとめ方で毎回提出していました。
ですが、あるとき「これでいいのかな?」という疑問が湧いてきました。
演繹的に考えたものはある意味、誰でも同じような結論になってしまいます。ありきたりなものしか生まれないのではないかと。それではつまらない。
もうちょっとロジカルから外れたアプローチが必要なんじゃないか、直感的なものと論理的思考の2つを合わせたものが絶対できるはずだと。ちょうどそのようなことを考えていたタイミングで参加したのがJ社のインターンでした。
──どのようなワークだったのですか?
Mさん:ワークのテーマは「未来のタバコを作る」というものでした。1日目から3日目まではインターンでよくある、タバコの価値とは何か、どういったときにタバコの魅力を感じるかという深堀を、演繹的にやっていたんですが、チームのメンバー3人ともいいアイデアを考えつかなかったんです。
それで4日目に社員から、「逆から考えてみよう」とアドバイスされて。自分がリラックスしているときを考えてみようと。リラックスとかコミュニケーションというところから発想しようと。
そのときにポッとでたんですよね、直感的に。「人形」が手を上げたらいいんじゃないかと。これワークの内容を説明しないと分からないと思うんですけど(笑)。
──たしかに、演繹的に考えると、出てこないアイデアかもしれませんね(笑)。
Mさん:タバコの価値というのは、喫煙者の人しか味わえていないので、非喫煙者の人にもそういった場をつくりたい。そこで、オフィスのど真ん中に「人形」を置いたらどうかと。
ストレスがたまって疲れたなと思ったら、ボタンを押す。すると「人形」の手が若干上がる。この若干上がった手を見て、自分以外にも誰かが疲れているなということを感じるコミュニケーションができるなと。
そこから、こういった「人形」が未来のタバコになるんじゃないかという方向性で、1日目から3日目まで演繹的に深堀りした内容と直感的なアイデアを合わせていくことで、自分のなかでは、理想としていたものができたなという達成感がありました。
──お話を伺いながら、自己分析やより高いレベルの達成感を求める姿勢に、eスポーツに取り組む姿勢と同じような印象をもちました。後編では、その後どのように最終判断をしていったのかをお聞かせください。
Mさんが就職先を決断するまでを訊いた、後半は以下から