日本の残業時間の平均は?
日本では諸外国に比べて労働時間が長く、残業も多いと言われてきました。1950年代から1970年代の高度経済成長期には、自らも家族も犠牲にして企業のために粉骨砕身で働くことが、日本の経済成長の屋台骨を支えると社会からもてはやされた時代もありました。「モーレツ社員」「企業戦士」という言葉も生まれました。
1990年代のバブル経済崩壊後は、賃金上昇が抑えられたり、リストラにあったりと、社員と会社の関係は変化してきましたが、長時間労働はまだまだ当たり前のように行われていました。しかし近年、働き方への注目度は非常に上がっており、実際に大きな変化が起きています。
2019年は働き方改革元年と言われ、大きな変化が起きています。変化の大きな時代ということは、企業によって取り組み方が大きく異なるということになりますので、これから就職する就活生の皆さんは現状を知り、自分に合う企業選びをすることが重要です。
・行政の統計資料による平均残業時間は? では、実際日本の残業時間の平均はどのくらいなのでしょうか?まずは、行政の統計資料から残業時間を見てみます。厚生労働省の「毎月勤労統計調査 平成30年分結果確報 第2表 月間実労働時間及び出勤日数」によると、平均残業時間は14.4時間とされています。調査の手法によるものなのかもしれませんが、実感値としてはもう少し残業時間がありそうな印象ではあります。
・民間調査による平均残業時間は? 別の調査もみてみましょう。社員の口コミを集めて、就職のための情報プラットフォームを運営しているOpenWorkによる調査「2018年OpenWork残業時間レポート」によると、2018年の平均は28時間となっています。現職社員による残業時間の口コミデータを集計し、年次の平均を算出したものです。公的な調査ではありませんが、ある程度信ぴょう性もあるものと思います。興味深いのが、5年連続で残業時間は減少しており、調査開始時の2012年よりも18時間減っているということです。まさに、働き方改革が進行中であることを感じさせるデータです。
一方で、近年の働き方改革により残業代が減ったことで生活が苦しくなったという声もあります。残業代を計算して、生活がなりたっていたというたケースも多いです。もちろん残業代目当てにダラダラ残ることはいけませんが、働き方改革により影響が出たの一つの事象と言えます。
海外の残業時間の平均は?
外国の方は残業をせずにスマートに帰宅しているイメージがあるかもしれません。そういう方がいるのも事実ですが、一必ずしもそういう方ばかりではありません。
・残業時間の定義とは? まず、ひとくくりに「残業時間」と言ってもそれぞれの国で制度が異なるので、単純な比較はできません。まずは日本における残業時間の定義を確認しておきます。労働基準法では、1日8時間かつ1週間40時間を上限に法定労働時間を定めています(労働基準法32条)ので、それを超えた分が法律で定められた残業時間となります。就活生だけでなく一般の社会人も理解していない場合がありますが、一般的に残業と言っているのは、各企業が定めた所定の労働時間を超えた分を残業と言っています。残業代は各企業の所定労働時間を超えた分から算出されます。
企業によって所定労働時間が長い場合と短い場合があるので、毎日20時に退社したとしても月の残業時間が異なります。例えば、Aさんは9時から18時を定時としている企業(お昼休憩1時間を除き8時間労働が基準)で、Bさんは9時から17時を定時としている企業(お昼休憩1時間を除き7時間労働が基準)に務めています。月に20日間、毎日20時に帰ったとすると、Aさんは月の残業時間が40時間、Bさんは月の残業時間が60時間になります。月に20時間異なると残業代も変わってきます。
・諸外国の長時間労働の実態は? 話を戻して、諸外国の残業時間の平均はどれくらいなのか?ということですが、統計としては独立行政法人の労働政策研究・研修機構の統計調査「データブック国際労働比較2018」の「第6-3表 長時間労働の割合(就業者)」が参考になります。この統計では、共通指標のなかで最長の区分である週49時間以上を長時間労働としています。基本的にはパートタイムも含みます。
2016年の週49時間以上の長時間労働の割合は、日本が20.1%です。これと比べて、アメリカ16.4%、カナダ10.2%、フランス10.5%、ドイツ13.7%、オーストラリア14.3%となっており、軒並み割合が少ないのが見てとれます。2015年のデータしかありませんでしたが、韓国の32.0%、香港の30.1%は日本より高いです。
この統計には中国のデータはありませんでしたが、中国でも日本より労働時間が長いと言われていますので、東アジアは残業時間が多い傾向があるようです。
・諸外国でも成果を出すには残業が求められる場合がある 国によって労働時間は異なりますし、仕事観も異なります。単純に「諸外国では、多くの人が残業なしでライフワークバランスを保って働いている」というイメージは間違いと言えるでしょう。海外でも出世するため、成果を出すためには残業が必要な場合も多くあります。成果を求められる管理職は、残業時間が多い傾向もあるようです。
日本でも「残業するのが偉い」という風潮は少しずつ薄れてきている印象もありますが、「残業しないのが正しい」というわけでもありません。残業は、勤める企業の環境や雰囲気によるところも大きいですが、自分が何を判断軸に働くのかということも重要です。
残業の限界時間は定められている
長時間残業で過労死というニュースに衝撃を覚えたり、就活生なら自分事として考えたりすることがあるかもしれません。実際、残業って何時間までしていいの?と思う人もいるでしょう。実は、これまでは原則としては定められていましたが、実際には何時間でも残業することができました。残業代を払わずに残業させるサービス残業ではなく、残業代を払う残業でも、上限時間は決められていませんでした。
・実は残業時間には上限がなかった。残業時間に関係する36協定とは? 労働基準法では、1日8時間、1週40時間までしか労働者を働かせることはできませんが、36協定(サブロクキョウテイ)を締結すると、この原則から除外されます。この協定は、会社と従業員側(労働組合か労働組合がなければ従業員代表)とで結びます。なぜ36なのかというと、労働基準法36条に基づくからです。
この36協定には特別条項という取り決めがあり、「臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない事情が予想される場合」に年6回(6か月)だけ限度時間を超えて残業できる取り決めでした。本来的にはこれは例外の例外という位置づけなのですが、広く取り決めが行われており長時間残業の温床にもなっていました。特別条項における残業時間に時間数の上限は示されておらず、法的強制力もなかったからです。これはブラック企業と言われるような一部の企業に限った話ではなく、平均的な日本の大企業でもほとんど36協定が結ばれています。
・働き方改革で何が変わった?労働基準法の改正 働き方改革の流れで2018年に労働基準法が改正されました。これまで特別条項を入れると上限なく残業することができたのが、法律で上限が設けられることになりました。施行は2019年4月1日からで、中小企業については1年の猶予があり2020年4月1日からの施行です。
まず、年間の残業時間の最大時間は720時間とされました。12か月で割ると60時間です。次に単月での最大時間が100時間までになりました。これは、休日労働時間も含みます。つまり、残業を80時間して、休日出勤で10時間勤務を2日間すると上限に達します。
そして、2~6か月の平均で休日出勤も含めた残業時間が平均80時間以内となりました。2~6か月の平均というのは、6か月の平均で80時間を超えなければOKというだけではなく、2か月の平均でも80時間を超えるとアウトということです。つまり、100時間残業した次の月に60時間残業すると平均80時間を超えるのでアウト(100+60÷2=80)ということです。
・サービス残業はまだ残っている これらの改革は、サービス残業ではなく、残業代をはらう残業の話です。サービス残業は残業時間としてカウントされませんので上記の話は当てはまりません。減ってきてはいますが、サービス残業もまだ残っています。残業代はコストとして経営に影響がありますので、残業代をどうしたら払わなくて済むかと考える経営者も残念ながらいます。社員から労働基準監督署に告発されて、残業代を請求される例も増えています。
就活生にとっては、希望する企業がどれくらい残業があるのか気になるところかと思います。ブラック企業を避けたいという考えもあるでしょう。しかし、残業についてストレートに聞くのはリスクが伴います。質問の仕方によっては、残業できない学生と思われたり、自分のことしか考えていない学生に見られることもあります。次の章で、自分に適した働き方を見つけるための考え方を、面接での質問の仕方も含めてご紹介します。
自分に適した働き方を見つけよう
自分に適した働き方とはなんでしょうか?最近の就活生はワークライフバランスを重視するという方が増えていますが、かなりの学生がワークライフバランスについて勘違いをしているように感じています。ワークライフバランス重視とは、「プライベートを充実させたいから仕事はそこそこでよい」や「残業時間のない会社を選ぶ」と思っていませんでしょうか?
・ワークライフバランスを勘違いしている人が多い ワークライフバランスとは、仕事と生活の調和であり、仕事と生活の相乗効果です。天秤にかけてどちらかを取るというものではなく、「生活の充実によって仕事のパフォーマンスが向上し、短時間で仕事の成果を出せるようになり、それがプライベートの時間も使えるようになること」です。決して楽なことではなく、覚悟や向上心が求められることであると理解するほうが良いでしょう。
・企業が取り組んでいる働き方改革とは? 一方で新卒採用をしている企業側としても、売り手市場のなかで優秀な学生を確保するのに必死です。学生のニーズである働き方改革を重視する企業も増えてきています。働きやすい環境を訴えることで、学生に注目してほしいと考えています。
企業側の具体策をあげると以下のようなことがあります。これらの制度がどれくらい充実しているかが働く環境が整っている一つの条件のようになっている側面もあります。 ・育児休暇 ・短時間勤務制度 ・フレックスタイム制度 ・テレワーク(在宅勤務) ・長時間労働の緩和の取り組み
しかし、重要なのは「制度がある」のではなくて、「制度が利用されている」ことです。例えば男性の育児休暇は制度があっても実際には使われていないことが多いです。フレックスタイム制度とは、1日のうちで必ず勤務するコアタイム以外は自由に出退勤できるというもので、比較的浸透していますが、実際どれくらい使われているかということが重要です。
・制度にだけ注目する就活生は面接官の評価が低い 就活生はこれらの制度に注目するあまり、NGな聞き方をしているパターンが多いです。「楽に働きたい」「自分の都合のよいように働きたい」ということが相手に伝わってしまう質問をする就活生は意外に多いです。こういうケースは、面接官の印象は非常に悪いです。
忘れてはいけないのは仕事で求められるのは成果を出すことです。給与をもらう代わりに仕事の成果を出すことが大前提です。そこが前提になっていない就活生は割と多いです。
・悪い印象を与えずに残業時間を聞く方法とは? 面接で残業時間を聞くのはリスクが伴います。残業したくない、仕事の意欲が低い、という印象を与えてしまう可能性があるからです。でも、どうしても知りたい!という人もいるでしょう。その場合は、意欲あることをアピールする内容で質問をすることです。以下の例を参考にしてみて下さい。
「成果を上げた先輩方の、残業時間を含めて一週間のタイムスケジュールはどのようなものでしょうか」 「成果を出すためには残業も必要だと思いますが、先輩方はどの程度どのような頻度で残業を行っていますか?」 「成果を出すためには残業も必要だと思いますが、どれくらい残業は許されるものでしょうか?」
残業時間に関する質問は、できれば面接ではなくOBOG訪問などのフランクな場面で聞くのがベストです。その場合でも、悪い印象を与えないように聞き方には注意が必要です。