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日本の「新卒一括採用」は意味がない【ピョートル・フェリクス・グジバチ】

30年後の「エリート」とは、どんな人物なのか。未来をリードする人材のあるべき姿を追究する「就プロ」オリジナル連載、今回はピョートル・フェリクス・グジバチ氏にインタビュー。グジバチ氏は、モルガン・スタンレーやGoogleを経て独立、現在は組織開発の専門家として活躍されています。人材・組織を知り尽くしたグジバチ氏が語る、就職活動。これから就活を迎えるみなさんはぜひ参考にして見てくださいね。

日本の就職活動は詐欺に近い

―ピョートルさんは新卒一括採用という日本独特の採用スタイルについて、ご意見があると伺っています。

グジバチ:新卒一括採用は、日本経済が製造業中心であった1960年代から70年代ならともかく、現在は意味を失っていると思います。

先日、私が駅のベンチに座っていると、となりでリクルートスーツを着た若い女性が本を読んでいました。見ると面接対策の本なのですね。

「採用面接によく出る質問項目にはどういうものがあり、それに対してどう回答したらいいか」という内容です。学生たちはそういう本を読んで勉強し、書かれている通りに受け答えしているわけです。

全員が同じ色のリクルートスーツを着て企業を回り、本に書かれた受け答えを行う。まるで映画「スターウォーズ」に出てくる武装兵「ストームトルーパー」を量産するための仕組みのようです。

企業のほうも同じです。私が電車の中で見た、ある大手IT企業の企業広告では、社員たちがいかにも楽しそうに働きながら「一緒に未来を作ろう」と学生に呼びかけていました。

その会社は私も知っていますが、とても堅苦しくて表情の暗い人が多いところです。そういう会社が「うちは楽しくて自由」と宣伝しているのです。これは一種の詐欺と言ってもいいのではないでしょうか。

その結果、会社も学生もお互いに本音を言わず、自分を偽って見せ、意味のないマッチングが行われる。これは全く無意味な慣習だと思います。

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悪循環から生まれる、学生の根強い大企業志向

グジバチ:そして、就職活動におけるもう一つの大きな問題が、学生たちの強い大企業志向です。

私は学生向けの就職イベントやセミナーでもよく話をしますが、ある講演の後で、就職活動中の女子学生がやってきて、「何社回っても内定が決まりません。周りの人たちは次々と決まっているのに、私だけ取り残されてしまいました。いったい、どうすればいいんでしょうか」と話しながら、泣き出してしまったことがあります。

そこで「あなたは大企業ばかり回っているのではありませんか。中小企業やスタートアップはどうでしょう」とアドバイスしたら、「考えたこともなかった」と言われました。

また、私はGoogleにいたとき、就職活動における大学生の検索傾向を調査したことがあります。

そこでわかったのは、大学生の多くは「人事コンサルタント」とか「AIベンチャー」などのワードで検索をしないこと。

言い換えれば「この仕事はどんなことをするんだろう」「こういう業種は面白いだろうか」という形の検索はほとんどしていないということです。

典型的な検索パターンは、有名企業の社名と併せて、気になるキーワードを一緒に入れて検索すること。

たとえば「○○会社 評判」とか「○○会社 ブラック企業」といった形です。「この会社に入ると世間からはどう見られるんだろう」とか「この会社はいい会社なんだろうか」と心配しているわけですね。

―「自分がどんな仕事をしたいのか」とは考えず、「自分はどの会社に行きたいのか」だけを考えているんですね。

グジバチ:その通りです。ある就職イベントで会った人は「今は銀行を受けていますけど、その前に電通とサントリーも受けました」と話していました。

有名企業という以外に何の共通点もない。そんな受け方をして、いったい何の意味があるのかと思います。

多くの学生が希望する就職先として「公務員」も根強いですね。その理由を学生に聞くと「クビにならないから」。そして「キャリアパスが決まっていて、年功序列で給料が上がっていくから」だそうです。

私は若い人がそんなふうに考えるのは、親世代の影響も大きいのではないかと思います。今の学生の親の人たちは、「自分の子供には役所や大企業に入ってほしい」と願っているようです。

しかし新しい産業や企業を必要としている日本経済を考えれば、それはよくない傾向です。

「就活」という場をビジネスとしている企業の影響も大きいでしょう。

大企業はそういった企業に対して、人を集められるように依頼をする。そして人材業界・広告業界・メディア業界といった業界が、大企業に有利になるようなイメージ操作を行う。

その結果、学生はベンチャーやスタートアップに行きたがらず、親も行かせたがらない。そんな悪循環を作っていると感じます。

大企業入りはむしろリスキー

―ピョートルさんが今、日本の大学生だったら、就職活動はしますか。

グジバチ:しませんね。起業するか、あるいは外国に行くか考えると思います。

私は日本の学生たちに「自分のキャリアは自分で作っていく。そのために自分なりの道を選ぶ」というマインドセットを持って欲しいと思います。

新卒で大企業に入ると、入社して数年の間、責任ある仕事を任せてはもらえません。入社から5年ほどすると、コアリーダー候補と目された一部の人たちは、MBAを取るために留学させてもらったりするようになりますが、残りの人たちはそのまま放っておかれます。

彼らは自分が何ができるのかわからないまま、次に何が待っているのかも知らずに、会社が決めた人事異動に従って駒のように動かされていくのです。そんなところに就職したいという感覚はおかしいと、私は思います。

現代は次々と新しい技術が生まれ、これまでのビジネスモデルが消滅していく時代です。逆に言えば、誰にでも新たなビジネスを生み出すチャンスがある時代です。

私は著書で、「19世紀のアメリカには、天然の氷を効率よく切り出して販売するアイスハーヴェストという業種があった。その業界で懸命に競い合っていた各社は、工場で人工的に製氷できるようになると、すべて倒産してしまった。天然氷の切り出し会社の大手で、製氷事業に乗り出して成功した会社は一つもなかった」というケースを紹介しました。

今のように変化が激しい時代に、これから社会に出る若い人が新たなビジネスにチャレンジしないで、昔から同じ事業を続けている大企業に就職するとしたら、安心どころかむしろリスクが大きいと言えます。その点、日本の若者は中国やアメリカの若者に比べてとても保守的だと感じますね。

私は先日、今年4年生になる女子大生から相談を受けてお会いしました。彼女はFacebookやTwitterで、4万から5万の人が参加するオンライン・コミュニティを作り上げています。

私と彼女は、彼女の持つコミュニティを使って何ができるか、マネタイズの方法をディスカッションしました。「このグループはオフラインのイベントを仕掛けられる」とか「このグループからは広告収入が得られる」といったことです。

彼女は自分が世の中でどんな価値を生み出せるか、学生時代から真剣に考えています。すでにあるベンチャー企業から業務委託を受けて働いており、卒業したら独立する方向で、就職活動の代わりに自分のビジネスの準備をしているのです。

日本の学生のみなさんには、彼女のような生き方もあるのだと知ってほしいですね。

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