ロレアル パリ、ブランドジェネラルマネージャー川口氏が語るキャリアのヒント
川口:日本ロレアル株式会社の川口絵美と申します。本日はよろしくお願いします。
さっそくですが、「美・ビューティー」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべますか?
言葉、イメージ、なんでもいいです。おそらくみなさん、頭の中にいろいろな言葉やイメージが浮かんでいると思います。
人それぞれ定義も違えば、表し方も違うと思いますが、目の前で満面の笑顔を見せてくれた彼はどうでしょう?
参加者A:「髪の長い女性の後ろ姿」
(会場が沸く)
川口:ありがとうございます。髪の長い女性というのも美の表れだと思いますし、口紅を想像する人もいるかもしれません。もしくは自信にあふれた表情、こんなのも美になりますよね。
中には、生きていく上で美は必要無いと思う方もいるかもしれませんが、私自身は「美」というものは非常に面白いと思っています。
これからも無くなる価値観ではないですし、多かれ少なかれ世界中の人々に何かしらのインパクトを与えられる。何よりもその影響がプラスに働くというのが美の力だと思います。
では、なぜこのような話をするのでしょうか。
就職活動をする中で、その後キャリアを築いていく中で、「企業や団体など属す場所の価値観」「バリューやミッション」こういったものに熱く共感できることはとても幸せなことだと思います。
私自身は、幸いにもパッションポイントが近しく感じられるロレアルという企業に就職することができ、その中で幸せなキャリアを築くことができています。
僭越ながら、みなさんに少しでもアドバイスができたらと思い、今日この場に立たせていただいております。
「USP」とは何か?
川口:ここで一つ質問です。「USP」とは何の略かわかる人はいますか?
「ユニーク・セリング・プロポジション(Unique Selling Proposition)」の略です。
マーケティング専攻の方は聞いたことがあるかもしれませんが、ユニークは「独自性のある」、セリングは「売り」、プロポジションは「提案する」、つまり「独自の売りポイントはなんですか」ということです。
日々マーケティングの仕事をするなかで、とても大切にしているキーワードです。普段どのようにUSPを使っているのか、その事例をご説明したいと思います。
さて、ここに「ヘアオイル」という製品があります。この製品を見たことある人はいますか?
(会場の参加者が挙手)
川口:ありがとうございます。うれしいですね。私はこれを売るために日々仕事をしています。ヘアオイルとは、髪の毛を潤わせたり、ダメージケアをしたりするための、洗い流さないトリートメントです。
そこで例えば、
「この製品は、髪が潤うヘアオイルです」
この商品をこのようにポジショニングしてしまうと、USPはとても少なくなってしまいます。なぜなら、ヘアオイル製品自体が髪を潤わせるものだからです。これだと競合との差別化は一切できていません。
では、「24時間、まるで香水のような香りが続くヘアオイルです」ならどうでしょう。
これでUSPが一気に強まりました。なぜなら、「24時間香りが続くもの」も、「まるで香水のような香りのもの」も、市場にはないからです。まるで香水のような香り、これも市場にはありません。
つまり、この2つのワードによってロレアル パリとして独自性のある製品のポジショングができるわけですね。
就活&キャリアにおいても、USPが重要になる
川口:突然USPという概念についてお話をしました。それは何故かというと、USPは製品のマーケティングのみならず、就職活動、またキャリアを築いていく上でも重要だと考えているからです。
その事例を、私自身の自己紹介を含めてお話をさせてください。
川口:「5、9、13」という数字があります。
まず、小学校は6年間ありますよね。その6年間で、私は5つの小学校に行きました。年に3回も転校したことがある、転勤族の家庭で育ちました。結果、9つの都市に住み、13回の引越しを経験しています。
これほど多くの都市であらゆる人と接し、多くのことを学べるような経験は自分にしかないものだと考え、就職活動においてはそれを自分のUSPにしようと思いました。
ですから、就職活動をする中で、みなさんも履歴書を書いたことがあると思いますが、たいてい高校卒業から書きますよね。私は高校卒業からではなく、このようなバックグラウンドがあったので、履歴書に紙をつけ足して小学校入学から全部書いていました。そして面接において、そうした経験から学んだことを話していました。
大学を卒業したのちに日本ロレアルに就職しました。2005年に就職して以来、14年間、マーケティングを軸に仕事をしています。ファーストキャリアを「メイベリン ニューヨーク」というマス向けメイクアップブランドで10年ほど過ごしました。入社5年目に管理職に就かせていただいたり、途中1年ほどフランスの本社に勤務するという経験もさせていただきました。メイベリンはメイクアップに特化したブランドなので、ここでメイクの基礎をしっかりと学びました。
そして次のキャリアに移りますが、「ロレアルパリ」というブランドを知っている人はいますか?
(会場の参加者が挙手)
川口:ありがとうございます。ご存知の方がいてよかったです。日本では、まだまだ小さいブランドですが、世界ではナンバー1のビューティーブランドです。日本ではヘアケア、ヘアカラー、メイクアップの3つのカテゴリーをビジネスの軸として展開しているブランドです。
直近4年間、ロレアルパリでブランド責任者として仕事をしています。非常にエキサイティングで魅力的な仕事をさせていただいていますが、このキャリアにつながったのも、やはりUSPの結果だと思っています。
話を2005年の入社時に戻します。私がメイベリンニューヨークというブランドに配属された際、同期が20名ほどいましたが、周りは優秀な人ばかりでした。
有名大学の有名マーケティングゼミ出身者や、フランス語、英語、日本語を話せるトリリンガルなど、錚々たるメンバーに囲まれ、正直、誰にもかなわないと思っていました。
ただ、今となってはそんなことを感じないほどに成長してこられたのは、今からお話しするキャリアの経緯があったからです。
入社後の研修中に先輩からある課題を出されました。口紅を30本渡されて、赤、ピンク、ベージュに分け、色の分析をするという課題です。当時の私にはその30本がすべてピンク系の延長にしか見えなかったのを覚えています。
この研修課題ゆえに、メイベリンへの配属が決まったときには心の底から口紅担当にだけはなりたくないと思いました。色のないマスカラや、青や緑など色がはっきりしているアイシャドーの担当になりたいと願いましたが、結果、最初の3年間、口紅を担当することになりました。
担当になったからには、色がわからないと言っている場合ではなく、勉強するしかないわけです。そこで私は色彩検定の勉強をしました。最初は3級からでしたが、今では講師の資格まで持っています。ここで何が言いたいかというと、資格が大事ということではなくて、自分のセリングポイントをどこに見出していくかということです。
私はさまざまな色の勉強をするだけにとどまらず、得た知識を社内でどんどん発信していきました。競合商品の分析や、自分たちのブランドでどういった色を展開すべきかということについても、知識を活かしながら発信していきました。
そうすると、「川口さんは色のエキスパート」、「メイクのことをよくわかっている人」や、フランスの本社でも「日本のメイクマーケットをわかっている人」といったイメージがつくわけです。
それが社内での私のUSPになっていったわけです。
次にどういう展開になるかというと、ロレアル パリからお声がかかります。
ロレアル パリというブランドは2015年にメイクアップカテゴリーを全面リニューアルしました。リニューアルが決まった2014年当時、ロレアル パリチームにはメイクにおいて高い専門性を持つ人材がいませんでした。そこで、「川口をメイベリンからロレアル パリに引っ張ってこよう」という社内人事が起こりました。
そのプロジェクトがアジアをリードするものだったこともあり、本社の会長にも名前と顔を覚えていただいたり、大きな場でプレゼンテーションをする機会をいただいたりしながら成し遂げました。
また、そのリニューアルを経て、今のロレアル パリと私があります。
いかに自分のUSPを作りながら、キャリアのステップアップに活かしていくかという簡単な事例として、今のお話をさせていただきました。
USP、これは個人個人で異なるものです。自身のチームメンバーとも「あなたのUSPはなんですか。それでどのようなキャリアを築いていきたいですか」という話をよくします。みなさんにも、就職活動やその後キャリアを築いていくなかで、ぜひ思い出していただければと思います。
全ての学生に、就職活動を楽しんでほしい
川口:最後になりますが、みなさん就職活動はどうですか? 緊張します? 大変? 面倒臭い? 私は就職活動中のみなさんを本当に羨ましく思います。
なぜなら、「私、今就職活動中です」という一言はマジカルワードだからです。これを言うだけでさまざまな企業がドアを開けてくれ、忙しい先輩たちの話を聞くことができます。今日もさまざまな方が登壇されると思いますが、そんな話を聞ける機会は社会人になったら本当に少なくなります。ぜひ就職活動というマジカルなモーメントを楽しんでください。
以上、ご静聴ありがとうございました。
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